ガードレールの向こう側

空想と現実の境界線の認識が怪しい人がなんか寝言言ったりする

陽炎抜錨の感想 1~4巻

 先日、25日にkindleに陽炎、抜錨します!の最終巻が配信されましたね。他人に陽抜はいいぞいいぞと言っておきながら自分自身ちゃんとした各巻感想を書いていなかったのでここに残しておきます。以下ネタバレ含む。

1巻
 後々の巻を読んだ後に読み返すと、作者自体、まだまだ方向性を模索していた時期だったのだと感じられます。例えば、1巻だとさりげなくスマホの存在が示唆されている(艦娘は機密保持の関係上、個人所有が禁止されている)ぐらいには実は現実現代に近い世界なのですが、以降は忘れ去られたのか黒歴史(設定)として封印されたのか手紙に固定電話に天測にとレトロフューチャーというかアナログチックな世界観描写に。まぁGPSやら軍事衛星やら使えたら味気ないですもんね。

 さておき、駆逐艦によるジャイアントキリングE.G.コンバット的な落ちこぼれ独立愚連隊の活躍みたいな話は元から好きなので私は最初からすんなり作品世界を楽しめました。六駆や雪風島風と違って、陽炎も曙も近年まではまだまだ界隈的な認知というか評判というか、そこまで注目されてなかったわけですから、マイナー駆逐艦に陽の光が当たった(作品が読める)というだけでも単純にありがたいものでしたし。七駆や十八駆好きでしたので。

 人の好みの分かれる「艦娘」という存在そのものについての設定部分は、史実重視のメンタルモデル説も好きなのですが、艦娘を物ではなく者として描くこちらの設定も艦娘の命の軽重(解体だの沈没だの)を深く踏み込んで描く上で美点として作用していてこれはこれで好きです。

 

2巻
 艦娘同士が(もはや喧嘩などという表現を超えて)本気で殴りあったり、瓶ビールを回し飲みしたり、艦娘轟沈(寸前?)が描かれたり、陽炎と不知火の無二の仲が濃厚に描かれたりと陽炎抜錨のシリーズ中その特徴的な作風が最も色濃く表れていると思われる巻。

 エンターテイメントとしての王道の中の王道とも言える展開ながら、それゆえどのシーンを抜き出しても屈指の熱さを誇り、シリーズ中では個人的に一番好きな巻です。

 特に高雄さんの「馬鹿め」は読んでいて思わず全身の毛が逆立った屈指の名シーンでした。特徴的な原作台詞や設定って何も考えずただ単に口癖とかを上っ面だけなぞらせるだけだとそれこそキャラが薄っぺらな頭弱い子、みたいに見えちゃうことが多いんですが、この作品はここでその台詞を持ってくるか!とかって思わず唸るような、台詞の流用がほんと上手で。1巻でともすると非難の的になっていた、提督・高雄さんへの言動へのフォローも入って汚名返上名誉三倍増。

 あとはこの巻に限った事じゃないんですが、実際のゲームの攻略風景を、解釈でシリアスな読み物として落とし込むのが上手いですよね、イベント海域攻略に際し入渠/高速修復材使用/再出撃を繰り返しと野戦病院の如く駆け回る鎮守府の様子とか。エリア88の終盤戦みたいで結構好きです。

 

3巻
 初期秘書艦に叢雲を選択し叢雲と長年連れ添ってきた叢雲提督にとっては理想の叢雲(と提督との関係性)が描かれてるのではなかろうかという、叢雲の叢雲たる魅力が群抜な叢雲が格好可愛よすぎる叢雲巻。叢雲好きな人なら読んでないの勿体ないレベルです。今更そんな人いるのかどうか分かりませんが。

 叢雲のアレとあきつ丸の設定を生かしたまさかの活躍も見事。艦娘が艦のメンタルモデルではなく人であるという設定だからこそ出来た活躍ですね。

 ドラム缶風呂に入ったり水着で泳いだり蛇を食べたりと、俗にいう所のサービスシーン回でもありますが、戦端の幕が切って落とされれば一転、壮絶な持久戦となる戦闘シーンとの温度差・落差も著者・絵師さん共に見事なものでした。

 

4巻
 何はともあれ

「ぶっ殺せー!」

 霞ちゃん最高ですよね。(クズ提督並感)

 1巻の前日譚、皐月や長月が如何にしてあのような独特の性格設定となったかが補足された巻にしてこのシリーズを特徴づける要素である「駆逐艦魂」……駆逐艦の矜持と信念、独特のコミュニティについて深く掘り下げられた巻でした。

 メインキャラ以外にも沢山のキャラに登場の機会があったのも良いところ。史実でも縁の深い霞や黒潮、神通さんのみならず、ゲストキャラクターである龍驤や祥鳳、日向・伊勢、最上の年長者としての立ち振る舞いがなんとも格好良い。ネタ要員じゃなく「普通に素晴らしく格好良い」。大型艦が駆逐艦らに向ける眼差しとその関係性が垣間見える回でもありました。名誉駆逐艦龍驤。ネタを逆手にとってあのような心温まる話へと変えたのは見事。

 なお、あのやたらコミカルな印象の節分のエピソードについては嘘か真か防衛大だか自衛隊の学校だかに元ネタが転がっているとかいう話。